
「俺たちは、サブスクじゃねーんだよ!」
C課長の愚痴がドアの向こうから聞こえる。
取引先との打ち合わせから帰ってきた俺は、ドアを開けられずにいた。
どうやら、C課長は、俺を含め社長と経営幹部たちに対して、自分たちを「サブスク=定額使い放題」かのように、毎日サービス残業させている、と言っている。
俺は、ドアを開けることができない。
C課長がこんなに荒れていては、今日のブログを社内で書くことはできない。
しょうがないから、俺は秋田駅・ALVEのきらめき広場で書くことにした。
それにしても、C課長は売上も上がらないのに愚痴ばかりだ。
労働組合の代表みたいな人間だ。
少しは、D課長を見習ってほしい。
そもそも論として、サービス残業うんぬんではなく、売上を上げることができないお前が悪いのだが・・・。
そこを理解できていないようだ。
非常に残念な人物である。
俺は、会社の仕事は仕事として、ちゃんとこなしている。
そして、社内の人間には内緒で、このブログとアフィリエイトの勉強をしているわけだ。
お前とは、レベルが100段以上、違う。
C課長よ、一生そうやって愚痴を言い続けろ。
俺は、お前らを置いていく。
俺は、お前らを助けない。
いや、十分に手を差し伸べたはずだ。
しかし、お前らは気づかない。
気づこうともしない。
愚痴を言うのが、そんなに楽しいか。
お前たちは、何かを改善してみたのか?
改善する努力をしてみたのか?
やってもできなかったのか?
それとも、それすら、やる気がないのか?
俺の手には負えない。
俺は、お前たちを残して、ALVEのきらめき広場に行くよ。
きらめき広場で、学生たちに入り混じって、ブログの記事を更新するよ。
お前たちは、ブログを馬鹿にしていたよな。
俺がアフィリエイトの概念を説明したときも、信用しなかったよな。
俺が「会社の事業をWEBにシフトしよう」ってお前らに説明したのは、お前らが変わって欲しかったし、何よりも時代遅れの、この会社が変わって欲しかったからなんだよ。
B女史
「胡散臭いですよ、部門長。ちゃんと仕事してくださいよ。もういいですから、これからWEBの時代だって、耳にタコができちゃいますよ。私、仕事あるんで」
B女史よ、お前にも関わってくる話なんだぞ。
お前の事務作業など、必要がない世の中になるんだぞ。
俺は、お前たちの将来が不安だから、教えてやったんだぞ。
なぜ、聞く耳を持たない?
なぜ、理解しようとしないのだ?
お前たちは、なぜ、なぜ、なぜ、時代が変わっていくことを理解できないんだ?
もう、俺は疲れた。
悪いが、俺は一人で先に行ってる。
本当に悪いが、俺は、先に行くよ。
もしも、気が変わったら、連絡をくれ。
もしも、時代の変化に少しでも気づいたなら、連絡をくれ。
午後4時過ぎのALVE。
高校生や大学生たちが、勉強したり、他愛もない会話をしている。
俺も学生時代に戻れたらなぁ。
就職なんてしないで、アフィリエイトで生計立てていただろうなぁ。
若い奴らが羨ましいぜ。
時間は戻らないよな。
さて、俺は、今日のブログでも書こう。
その時、スマホに着信アリ。
社長だった。
俺
「はい、魁です」
社長
「魁クン、人材の件、どうなった?」
俺
「申し訳ありません。まだ、我が社に適正な人物に出会えていません」
社長
「こないだ、面接していたじゃないか。彼はダメだったか?」
俺
「残念ながら、当社にはふさわしい人物ではありませんでした」
社長
「この時代、営業職に応募してくる人間なんて、そんなに多くないぞ。選んでる暇はない。君が育ててくれれば、それでいいんだ。人を選ぶよりも、君自身を磨きたまえ」
俺は、頭にきた。
俺は、俺の手間がかからない人材を探しているんだ。
俺の仕事を増やさないでくれ。
人を育てることほど、大変なことはない。
自分を育てることは容易だ。
でも、他人を育てるってのは、めちゃくちゃ大変だ。
相手の目線にレベルを落として、伝えなくちゃ、伝わらない。
したくない共感も、たまにはしながら、褒めて育てないと、最近の若い奴らは、すぐに辞めていく。
「おお、いいね、いいね。その調子」
なんて、合いの手を入れながら、上手にやらないと、ゆとり世代のクソどもは、育たない。
どうせ、そいつら、全部辞めるんだから、無駄なんだよ。
だからこそ、手のかからないヤツを俺は探している。
俺
「社長、引き続き、人材を探します。今しばらくお待ちください」
社長
「頼むぞ。君には期待している。それじゃ」
クソ!
俺に期待なんかしてるんじゃねぇ!
俺は今、WordPressの設定で忙しいんだよ!
俺はこれからガチアフィに挑戦するんだよ。
会社の仕事は後回しにしてるんだよ。
ふざけんじゃねぇ。
絶対、脱サラしてやるからな、クソ社長!
あー、社長も従業員も腹が立つ。
俺以外のステークホルダーに腹が立つ。
なんで、会社ってこんなに面倒くさいんだ?
マジで、コツコツ、アフィしてる方がノンストレスだな。
誰にも気を使わなくて済む。
そりゃ、ASPに気を使わなくちゃいけないけど、むしろASP担当者の方が気を使ってくれるもんな。
会社じゃ、部下たちに気を使い、社長に気を使い、得意先に気を使う。
ストレスだらけだ。
秋田の人口は減り続ける。
人手不足は加速している。
給料は上がらない。
考えれば考えるほど、くだらない。
会社に時間を費やすことほど、くだらないものはない。
俺は、日頃のストレスを「はてなブログ」で吐き出している。
なるべく、毒舌すぎないように、気を使いながら書いているけど、毒舌多いかな(^_^;)
そんなこんなで、俺はWordPressのサーバーインストール作業をしていた。
午後4時30分。
転職エージェントから着信アリ。
転職エージェント
「魁さん、これから会えますか?急ですみませんが、一度会っていただきたい人材がおりまして。どうでしょう?」
俺
「いいですよ。私も電話しようと思ってたところなんです。どちらに伺えばいいですか?」
転職エージェント
「そうですね、人目のつかないところがいいですね。駅前のカラオケ店の個室でどうでしょうか?」
俺
「はい、今ALVEなので、すぐ行けます。それじゃ、向かいますね」
俺は、このカラオケ店に、数年前まで、毎晩のように通っていた。
週3ぐらいのペースでベロンベロンで歌いまくっていた。
そう、今、あなたが聴いている米米の「shake hip !」を歌いまくってた。
接待の最後は、カラオケかスナックでカラオケだった。
今、俺は、接待を徹底的に断捨離している。
同僚との飲みも極力断っている。
価値のない人間たちと付き合っている暇がないからだ。
そりゃ、飲んでりゃ楽しいよ。
歌って騒いで、キャバクラ行って、スナック行って、楽しいよ。
でもね、くだらないのよ。
もう、そういうコミュニケーションは俺には不要。
面白くなくなっちゃった。
それが楽しい人は、それで楽しんで良いと思う。
とにかく、俺は、飽きた。
秋田だけに飽きた。(・_・;)
俺は、店の中で待つことにした。
この時間のカラオケ店はガラ空きだ。
俺は、日中、ここで仕事をしていることもある。
誰にも邪魔されず、一人の時間が持てるから、最高だ。
待つこと10分、転職エージェントと一人の中年男性がやってきた。
転職エージェント
「おまたせしました。さ、個室に行きましょう」
俺
「あれ?ハナシが違いますね。ウチが希望しているのは、20代後半から30代前半の経験者でしたよね?」
転職エージェント
「それ、本気で言ってます?今の秋田県内じゃ、そんなに良い人材、いるわけないじゃないですか。魁さんだって、おわかりでしょう?」
俺
「いや、そりゃわかってるけど、そこをなんとかするのが、おたくの仕事でしょ?大変失礼だが、僕よりも年上に見える、この方を紹介されても、時間の無駄です」
あー、今日は散々だ。
部下は部下で荒れてるし。
社長にも腹立つし。
人材を依頼していた転職エージェントもクソだ。
くだらねー。くだらねー。くだらねー。
とっとと家帰って、WordPress構築すっか。
脱サラ、ドロンだ!バカヤロウ!
転職エージェント
「まあ、そうおっしゃらずに、お話だけでも聞いてくださいよ。年齢はいってますが、経歴はすごいんですよ、この方は」
中年男性
「はじめまして。阿部サダヲと言います。私は先月まで、東京の某大手企業◯◯で営業管理部門のマネージャーとして働いていました。定年まで、働くつもりでしたが、両親が高齢となり、秋田にUターンしてきました。御社のことは、転職エージェントさんから、よく聞いています。御社の企業理念に胸を打たれ、このたび希望させていただきました。どうぞ、よろしくおねがいいたします」
大体、このパターンだ。
両親が高齢だから、両親が病気になったから、そういうパターンでUターンしてくる人が多い。
むしろ、それ以外の理由で秋田に返ってくる人間などいない。
給与が圧倒的に下がるから。
履歴書を見る限り、大手企業一本で働き、営業マネージャーまで昇りつめたようだ。
真面目な人だとお見受けする。
でも、年齢が50歳。
見た目は俺よりも若いけど・・・。
この歳で、俺の部下になるというのか?
扱いづらいだろうなぁ。
営業マネージャーやってきた人間が一兵卒として、働けるのか?
ま、古いタイプの人間だろうから、ウチの会社にはあってるかもなぁ・・・。
ん?
そうだ!
俺がこの人を上手に育て上げて、俺がこの会社をやめた後に、部門長を任せればいいのか!
経験値から言えば、俺よりも遥かに、レベルが高いはず。
俺がスムーズに辞めるためには、この人を利用すればいいんだ。
この人だって、それが本望だろう。
今まで営業マネージャーをやっていた人間が、一兵卒なんてやりたくないはずだ。
俺は会社を辞めたい。
渡りに船じゃねえか!
俺の脱サラ魂に火が着いた。
そうとなれば、俺の決断は早い。
俺
「なるほどですねぇ、素晴らしい経歴だ。あの大手企業で営業マネージャーを務められたのですね。我が社には、うってつけの人材かもしれませんね。ちなみに、座右の銘はなんですか?」
座右の銘を聞けば、人間性がわかる。
馬鹿は、馬鹿なりの座右の銘を持ってるし。
適当な人間は、適当な座右の銘を喋る。
それなりの企業で営業マネージャーをやっていた人間だ。
それなりの座右の銘を持っているはず。
さあ、何をチョイスする?
阿部サダヲ
「私は、松下幸之助を尊敬しています。その中でも、今、50歳の私が、松下幸之助の名言をひとつ上げるとすれば・・・」
志を立てるのに、老いも若きもない。
そして志あるところ、老いも若きも道は必ず開けるのである。
おお!
素晴らしいチョイスじゃないか!
ウチの社長、喜ぶよ😆
その言葉、俺も結構、好きよ。
イイね❗イイね❗
俺の中では、合格よ!
俺
「素晴らしいですね!さすが、大企業で働いてきた人生の大ベテランだ!僕は阿部さんと一緒に仕事がしてみたいなぁ。ぜひ、ウチの社長と面接してください」
転職エージェントは、満面の笑み。
これで、年収の30%の利益確定だぁ!フガァー!って顔をしてる。
阿部の年収は、たぶん、月収30万切るぐらいの設定になるだろう。
仮に30万だとして、ボーナスを合わせると、MAX450万ってところか。
その30%だから、130万くらいが、転職エージェントの売上になる。
そりゃ、フガァーって顔つきになるわな。(^_^;)
いつも思うけど、転職エージェントって、良い商売だよなぁ。
俺も、転職エージェントになろうかなぁ。
他人の人生を背負うってのが、ちょっとプレッシャーかかるけど。
人を横流しにする仕事って楽でいいよな。
たぶん、俺、向いてる。
転職エージェント
「そうですか!では、社長様のご都合で面接の調整をお願いいたします」
俺
「承知しました。また、追って、連絡いたします」
時刻は午後6時を過ぎていた。
今日は、散々だったけど、最終的には、良さげな感じで終わった。
俺の気分は、少し上がっていた。
ここは、カラオケ店。
転職エージェントと阿部サダヲが帰ろうとしたその時、俺は声をかけた。
俺
「良かったら、歌っていきません?就業時間、過ぎてるし、もう直帰するので」
転職エージェント
「良いですねぇ。歌っちゃいましょ!ね、阿部さん」
阿部サダヲ
「大丈夫ですか?魁さんが問題ないなら、ぜひお付き合いさせていただきます」
俺
「じゃ、阿部さん、一曲目、歌っちゃってください」
今日の記事は、以下の記事の続きです。